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 2014年04月 

また、とんかつの話。 

とんかつ成蔵

すでに現役時代の仕事で“一生分に相当するとんかつ”を食したつもりでも、周期的にそれを食べたくなるのはその仕事からくる習慣が身について今だに消え去らない。体によくない、食いすぎだ、“豚体型”といわれても習慣というものはそういうものなのだ。
どうやら又周期がめぐってきたらしいのだがその周期は何に触発されているのかはわからないが大体一月に一度の循環である。その循環、周期にあたった先週に気に入りのとんかつ店に伺うと定休日だった。ならば来週には絶対!と脳裏にプリントして代替のてんぷら屋にしたのだが、こちらも揚げ物であるから脂、油が体内に稀薄になると循環機構に油を注せとばかりに信号を発するのかもしれない。
でもあのとんかつをとばかりに土曜日に伺った。このあたり高田馬場、池袋、などの移動範囲の中では一番のとんかつやだと思っている。上野・浅草の、新宿の、目黒の、ととんかつ屋のリストは浮かび上がるがそれらの名の通った店にも負けないと贔屓する店なのだ。小さな店だしと開店に間に合わせて出かけるか、と早々に降りた高田馬場の駅を右に回り少しの坂道を大久保の方向へ急いで上るとこの坂だけのせいではない胸の高ぶりがする。
見当の場所にはすでに何人かの塊が見えて手前の小道の線路の側にも次ぎから次へと並ぶのは皆同じように開店の30分ぐらい前に並ぶ目途で来ているらしいのがわかる。こちらの前には12人、開店丁度の時間に後ろを振り返ると20人以上が見える。“おそいんだよお”とひとり言ちながら、こちらは18席の店内に入れる一回転分の客だなと狭い階段を下りカウンター席に着く。
以前来たとき、昨年末だったか、牡蠣フライや鱈の白子のフライがメニューにあったから久しぶりの訪問である。こんなに並ぶようになったのは何かわかる気がする。口コミなのだろう、リピートなのだろう。若いキッチンスタッフ(店主も)のとんかつ屋に掛ける意気込みが違うように感じたからだ。店内にべたべたとチラシの類を張らない、メニューは絞っている、店内は全く清潔である(ビルの地下は古い、しかし綺麗だ、油っぽくない)、店員も気が利いている、余計な会話などしない、そして何より豚肉がおいしいのだ。この辺がこちらのとんかつ屋の選択条件にぴったしなのだ。
豚肉は「霧降高原豚」、とある。それがここの売りである。以前はそのほかに入荷したときのみ沖縄の「あぐー豚」もおいていたが今日は並んでいた時に見たメニュー・カードにはなかった。その列の時にあらかじめ注文するのだが今日はこがれていたとんかつは勿論ロース肉、であるが「特上とんかつ230グラム」にした。揚げるに15分はかかります、と言われるが時間ではない、急ぐ旅、じゃなかった急ぐ用件はない、と奮発した。
すでに満席になっている店内のカウンターでキッチン内の作業一つ一つを注視する。切り分けられたそれぞれの豚肉、海老などのスタンバイが始まる。豚肉に軽く塩を振り、小麦粉を塗し、軽く抑える、バッター液に漬ける、それに細かいパン粉を軽く抑える。今日、汚れを知らない“一番油”(腸間膜油を詩原料にしているという)の小さなピチピチした音で油と肉の中の水分の交換が始まっている。この音を出しながら低温でじっくりと揚げる。間もなくタイミングよく揚げ終えたとんかつ、フライを一度網に乗せて油を限ながら余熱で芯に熱を通す。その段階でお盆に熱いトン汁、ポテトサラダの小鉢、新香、温かいご飯がセットされて20分ぐらいで普通のとんかつ、上のとんかつが手早くカットされて皿に乗ってサービスされる。手網で細かくパン粉の揚げくずを油から掬い取っている。そのあとに厚さは3センチはある230グラムの我がとんかつが下処理をされて油の鍋に滑り込ませる。両脇の客は「上」であるからもう食べ始めているがこちらは湧出る唾を我慢して入店してから45分!、たいへんお待ちどうさまでした、とキッチンの揚げ担当(これが店主だろう、揚げ鍋奉行!)が余熱が入った段階で分厚い揚げとんかつをざくっと8個に切り分けて目の前からお盆で差し出される。ほんわかと湯気が立っているのが見える。
さて、待っていたとんかつである。勝負!とばかりに端から3切れ目の真ん中を箸でつまむ。重い、ほんとに重い一片。
芯にはうっすらと桜色が、脂部もキラキラとそして甘い、衣は軽くさっくりと剥がれ零れることもなく綺麗に纏われている。丁寧である。一口を頬張ると微かに獣香りがしたのだが肉は柔らかく汁が出る、脂が舌と頬で旨さを感じる。
この十分だ!という味感覚にじっくりと感応しながら8切れを食べるのだが、ご飯はぜんぶ食べきれない。旨さがずっしりという感じで満足である。なかなかこういう満足感をとんかつで感じたのは230グラムばかりではない。110グラムの普通のとんかつを2度食べるならその分、一回ここで特上を食べると満足感は2倍以上であることは間違いない。
並んでから2時間近くで出口の階段を上る横にはウエイティングの客がまだ列、である。仲間、夫婦、独り者など様々だがこのうまさを知っている人たちだ。みな満足して階段を上り、みなその満足をも一度期待して階段を下りる。
このような客で支えられているのはこの店の運営方針は主原料たる精肉・フレッシュ豚肉のうまさを損ねないために揚げ技術を曲げず、省かない、そして丁寧な油の交換管理をして、旨いとんかつを提供することに対してケチらないなど、この商売に掛ける意気込みだろう。
この店のもう一つのメニューに「シャトー豚ブリアン」と牛肉並みの名前を付けられた一品(特上ローストほぼ同価格)がある。あのヒレの塊3個も揚げ時間がかかりそうな肉だが一度食べてみたい。そのために循環期間は短縮されそうだが、いまはまだ“特上ロース230グラム”の満足感が余熱、余韻として残っている。

*お気に入りのとんかつや・高田馬場「成蔵」
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