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 2012年10月 

サンゴ礁の声。 

有元利夫と夜光貝


「アッ、これだ!」と気が付いた。以前、このブログでも書いた奄美大島で買い求めた“夜光貝”のことである。栄螺の親戚筋のこの貝の大きさと、その貝殻の美しさに引かれて奄美漁港近くの魚の卸業者さんを訪ねて、在庫は10個以上はあったか、その中から大きくて美しいその貝殻を2個求め、居酒屋で戴いたものと合わせて3個を土産に持ち帰った。
その貝殻は大きさも様々であるが、何よりも貝殻の外側の柄というか模様の自然の多様さに驚き、気に入ったその模様のものを買い取ったのだった。そして、何より美しかったのが貝殻の内側の真珠の様に、柔らかく輝く肌である。
今も、書棚に飾られて、その棚のある部屋に入る度に手にしてジッと眺める。外側と内側に指を滑らせ、さする。
何故、多くの貝殻の中からこの模様のものを選択したのか、何か心に訴える物があったからだろう。どれでもよかったからではない。幾度かそんな思いを貝殻を見ながら思ったものだ。この夜光貝という何とも誘惑的な名前は夜になると輝く、というようなことは無く“屋久貝”がなまった名らしい、と興味も半減するような解説もあるのだが、今のままの名称で通用するのが詩的ではないか。
この土産の貝を手にした人は大きな貝の間口を見て海の声が聞こえそう、と耳に持って行って言う。南のサンゴ礁で育つというこの貝はあのきれいな海色の中でそれぞれの衣裳を好きな色合いで纏い、長い年月を経て微妙な色彩の、なだらかな螺子のような今の大きさになったのだ。貝の開口部は15センチ、全長18センチ、立てると先端までで13センチはある。そして重さは1.05㎏もある。
この外側のらせん状にどこまでも捻じれて永遠に先端を伸ばし続けそうな連続と、内側を見ていると真珠のほんのりと薄いピンクや緑色等がかすかに見える肌は、こちらを奥に、奥にと誘い込むような、奥に豪華な宮でもありそうな誘惑に駆られる。一体この色は、この肌は何によって作られていくのだろうか。
そして、外側の衣裳である。サンゴ礁に育つというのだから、珊瑚虫によって、微妙な灰色の肌に細かい何とも言えない赤紫の小さなドットが作られる。そのドットがこのスパイラルの造形物に散らばっている。
この状態に「あっ!」と驚き、それが乗る書棚にある、「有元利夫展」の画集に手が伸びた。そうだ、この作家の「花降る日」だ、と頁を繰った。らせん状の階段の一段目に立つ有元風の豊かな体躯の女性が青い布を拡げている。
その風景に小さな赤い蕾の花が沢山降り注ぐ。光の線も差し込む。この画家がこの詩的な絵をもって安井賞の選考委員会賞を得た、デビュー作である。フレスコ画の様な画面の作りと画面に時間を経たように加工をして、額縁にもその雰囲気を出した独特の静かな絵画であり、それが記憶の奥に掲げられていたのだが、あの魚卸業者の店先でこの自然の作った貝殻の模様、色彩とリンクしたのだ。
作家は趣味でリコーダー(たてぶえ)を良く吹いていたし絵画にも登場している。多分、絵画の中はバロック音楽だろう。「バロック音楽を聴いていると、天から花が降ってくるようだ・・・」と言っていたというから。
真珠色の魅力に引き込まれた貝殻の遥か奥の宮殿ではバロック音楽が静かに流れていそうである。
この夜光貝は細工されて螺鈿として装飾につかわれていたという。魚屋さんは平泉の中尊寺の螺鈿の装飾はこの地の夜光貝が使われた、と言っていた。なんとも妖しい美しさを持つ装飾細工であるが、引き込まれた夜光貝の中での響きも聞いてみたい。

*右が有元利夫の展覧会(2007年1月、そごう美術館)の画集の中の「花降る日」のページ。左が夜光貝。
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